広報はPRなのか ?

一般的に広報は英語のPRで表されることが多い。このPRはPublic Relations の略であり、単なる情報発信をする行為ではない。多くの定義はあるものの「対象(パブリック)との関係性構築が本来の目的である。」

 

ただ、新聞記者やテレビ関係者もきっとお忙しく勉強する暇もないとは思うが、広報やPRを情報発信やアピールくらいの意味合いで使っている。(実に楽な商売である)

 

関係性構築には一方的な情報発信だけでは不十分であり、双方向のかつ発信者自体もそのフィードバックからの自己変化も求められる。

 

「○○町地域の特産をPR」みたいな記事は多いがそれは、アピールという表現が正しい。

 

 

宮崎県小林市のあのPR動画の効果を探る

昨年、多くのマスメディアで取り上げられた宮崎県小林市の移住促進PRムービー「ンダモシタン小林」について、今回はその効果について検証したいと思います。

 

このPR動画は、宮崎県小林市が作成した移住促進を目的とする動画で、YouTubeには2015年8月26日に公開されています。

 

内容としては、とあるフランス人が小林市内をあるきながら地域の人々とふれあいながら、町を紹介するものです。実はこの動画には「オチ」があり、動画中で話されていたフランス語が実はその地域特有の方言「西諸弁」であったことが明かされるものです。

 


宮崎県小林市 移住促進PRムービー "ンダモシタン小林"

 

その動画のおもしろさから、多くの情報番組で取り上げられたと記憶しています。

実際、この動画の再生回数は2017年1月16日現在で2,178,456回再生されており、自治体PR動画としてはトップクラスの再生回数となっています。

 

以下では2015年8月26日に公開されて以降、1年半ほど経過した現在、その効果を検証を試みます。

 

 

移住を検討してる人にとってはその移住先の選定は極めて重いものになります。

2015年8月に動画が公開されたからと言って、すぐにその効果が現れるものでは無いでしょう。またその効果についても、究極的に求められるのは移住者の増加ですが、その手前には何段階かのフェイズがあると考えられます。

 

その何段階かのフェイズについては、

例えば

⑴認知の獲得

⑵地域の情報探索(第一段階)

⑶移住先候補入り(3〜4地域)

⑷移住先としての情報探索(第二段階)

⑸実際の移住

 

以上の5段階くらいは考えられます。

しっかりとPRの効果をフェイズに別けて判断する必要があります。ただし、実際にその効果を全ての段階で把握することは容易ではありません。

 

例えば⑵、⑶、⑷は実際に移住者に調査表によるアンケート調査や、ヒヤリングをかけないと自治体や外部からはその行動を把握することは難しいものです。

しかし⑴認知の獲得と⑸実際の移住に関しては、ある程度の把握が可能です。

特に⑸については相当細かく把握できます。

 

まず⑴認知の獲得についてです。

今回のYouTube動画「ンダモシタン小林」によって、少なくとも200万人の人にリーチすることができました。これは既に宮崎県小林市のことを知っていた人、今回の取組ではじめて知った人どちらも含む数です。そして移住を検討しているかどうかも分かりません。ただ取りあえず200万人には見られました。

 

*実際には、この動画はマスメディアに多数取り上げられており、実際のリーチはこの200万人を優に超えることになるでしょう。

 

そして肝心の⑸実際の移住に関してです。

宮崎県小林市は公式サイトで人口及び世帯数の推移を毎月公表しています。

cms.city.kobayashi.lg.jp

 

今回はこの情報を元に分析してみたいと思います。

小林市企画政策課によりますと、今回のPRが開始された平成27年8月の住基人口は47,682人です。平成27年度の人口の変遷は以下の通りです。

 

平成27年8月 47,682人

平成27年9月 47,708人(+26人)

平成27年10月 47,662人(-46人)

平成27年11月 47,673人(+11人)

平成27年12月 47,642人(-31人)

平成28年1月 47,642人(前月同数)

平成27年2月 47,582人(-60人)

平成27年3月 47,552人(-30人)

 

平成27年3月1日時点で人口は、8月比で130人の減少(-0.27%)となっています。

前述の通り移住は人生の中でも大きな決断であり、すぐにその効果が現れるものでは無いでしょう。半年程度でその効果は現れなかったのかもしれません。

 

次に翌年度平成28年度の人口の推移を見てみたいと思います。

平成28年4月 47,182人(-370人)

平成28年5月 47,301人(+119人)

平成28年6月 47,268人(-33人)

平成28年7月 47,232人(-36人)

平成28年8月 47,235人(+3人)

平成28年9月 47,199人(-36人)

平成28年10月 47,175人(-24人)

平成28年11月 47,150人(-25人)

平成28年12月 47,124人(-26人)

平成29年1月 47,089人(-35人)

平成29年2月 47,038人(-51人)

PR動画の公開から約1年半が経過した平成28年2月時点で人口は、昨年8月比で644人の減少(-1.35%)となっています。

 

*これはあくまで住基人口の推移で、細かく自然減がどれだけあり、社会減がどれだけか把握したものではありません。つまり、転入者は平成27年8月に比べ増えているにも関わらず、出生数以上に死亡数の数が多く、また転出者の増加を止めることができなかった可能性は十分あります。

 

しかし結果として、

ンダモシタン小林は少なくとも200万人以上にリーチした近年有数の移住PR動画にも関わらず、人口自体は644人も減ってしまっています。

 

この分析からは、小林市の移住PR動画は1年半経過した現在では、小林市の人口に対して効果はほとんど無かったと言えます。

 

現状では以下のようにいくらか原因が考えられます。

 

  1. ⑴認知の獲得から⑸実際の移住にまで相当の時間がかかるのかもしれません。
  2. ⑴認知の獲得は成功したかもしれませんが、⑵以降について行政側として十分な着地点整備ができていなかった可能性があります
  3. また⑵⑶⑷⑸についてはPR効果では「態度変化・行動変化」を訴求する段階です。PRで態度・行動変化をさせるのは難しく、またそれを促す魅力が小林市には無かった可能性も残されます。

 

あれほど大きな反響を得た宮崎県小林市のPR動画ですが、1年半程度では人口に対しては大きな効果は得られていません。

 

PRの効果測定には長期・短期からの評価が必要です。

認知の獲得という観点からは大きな成果を得た小林市ですが、肝心の態度・行動変化では期待ほどの成果は得られていません。おそらく後者には長期的な視野が求められるものでしょう。

 

多くの自治体が小林市のようにPR動画を作成し追従しようとしていますが、あの小林市ですすらこの様な状況です。再生回数が10万にも満たないであろう他の自治体では、望むべくも有りません。

 

自治体関係者は、この結果を肝に銘じるべきです。

 

無闇な情報発信・PRは慎みましょう。

PRには戦略と評価を。

広報さっぽろのSNS戦略

北海道札幌市の広報誌である「広報さっぽろ」がちょっとしたSNS戦略をしています。

 

以下転載 広報さっぽろのこと投稿しませんか/札幌市

札幌市では、広報さっぽろなどの情報をより多くの方々の目に触れる機会を増やしたいと考えています。そこで、ご自身のブログやSNS(ソーシャルネット・ワーキング・システム)を使って今月の広報さっぽろや広報テレビ・ラジオ番組の感想や記事の紹介を投稿した方の中から抽選で5人の方に、広報さっぽろオリジナルQUOカード500円分(非売品)を差し上げます。

 

f:id:teruteruo77:20170115224145p:plain

 

 

広報誌をSNS上で展開させることで、若年層を中心とした今までなかなか到達していない住民への情報発信を狙ったものだと推察されます。

 

広報誌の内容をSNS上でシェアするような住民は、かなり意識高い系住民であり、その数は相当限られている気がしますが。このようなインセンティブなども一つの情報発信の施策でしょう。まずはその効果が気になります。

日ハム栗山監督と北海道栗山町の広報誌

北海道日本ハムファイターズ栗山英樹監督は北海道栗山町に住んでおられます。

今年1月号の「広報くりやま」から栗山監督がこの町にどれだけ溶け込んでいるかが分かります。

 

f:id:teruteruo77:20170115184849j:plain

 

 

どうですか。この栗山監督特集。

まるで、栗山監督個人の広報誌かのような出来である。

自治体の広報紙にこれだけ大きく一人の顔が載ることなんてそうそうありません。

 

 

本文は以下の通りである。

f:id:teruteruo77:20170115185104p:plain

 

f:id:teruteruo77:20170115185114p:plain

 

本文の中の

「栗山監督はいつものスポーツウェアと長靴姿で、軽トラックの上から〜」

が実に栗山監督らしい。

 

また「いつもの〜」と表現するほどの関係性が役場職員と監督の間には出来上がっていることがうかがえます。

 

そして軽トラの上からの優勝パレード(笑)。

いいですね〜〜。他球団の監督では決して真似できないでしょう。

 

自治体の広報誌は基本的に堅くて、つまらないものになりがちですが、

広報くりやま1月号は新年早々、相当攻めたものでした。

地域の人には相当インパクトあったのではないでしょうか?